2014,10,20 泊鉈 130匁


サラリーマン時代には全く縁の無いシロモノであったが今では日々の山仕事での良き相棒となっている。
鉈も地方 用途により色んな形状があるが自分にはこれが1番しっくりくる。
来る日も来る日も年から年中使っている。


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越中富山の大久保中秋氏による泊鉈 130匁
(鞘は自作で柄共にカシュー塗り。柄は滑り止めのテープ巻き)
越中トンビ鉈とも言われる。
重さの単位が匁であるが、3.75g=1匁であるために正味の身だけの重量を指している。(柄を除く重量)
(電話で注文する際に130メって言ってたので気になって調べたら130目ともいう事がわかりました。10の倍数の数字だけに使われる言い方らしい。なので130モンメではなく130メのほうがより正解)
当初もう少し重いものがよかったのですが実際持ってみると593g。(柄+身)
一般的な腰鉈と比較すると随分重い部類に入ると思われる。
並幅の片刃7寸、8寸の通常の腰鉈でもそれぞれ550g、600g前後。
仮にこの泊鉈を150匁にすると恐らく670〜680g前後ではなかろうか。(柄+身)
こう数字だけを見ると150匁がかなりの重量級となるが試しにその重量差分の重りを付けて振ってみてもそんなに気にするほど変わりないように感じた。
確かに若干振りが重くなるがその分振った際の力も上がることになりチョッピング力は上がる。
リーチと重量による慣性力は魅力であるが当然それらは携行性と反比例する。
鋏やら鋸やら虫除けスプレーやらを腰に付けているので腰回りは出来るだけスマートに収めたい。
重量は特に気にならない。
それよりも大きさ。
変な体勢で動きまくってる故に腰回りは出来るだけスマートにしたい。
4〜5センチ長くなると結構邪魔になる。腕や脚に干渉しやすい。
鋸との兼用が前提なのである程度太くなると鋸の方が圧倒的に早い為にあまり鉈が大型になる必要はない。
私の場合はルートの確保がメインで結構使用頻度が高い。
普段、人の入らない里山では空荷ですり抜けるのがやっとや腰をかがめて通るのがやっとというところが非常に
多い。
入る時はよいが満載にした背負子を担いで搬出する際に通れないのでルートを開拓しながら下りなければ
ならない。
道がもともとないので迂回ルートもへったくれもない。
直径10〜50mmくらいの枝木が対象でそれ以上は鋸の出番。
(それ以下は剪定鋏)
無理に鉈を使うと余計な労力が要る。
又、作業箇所での場所の確保で鬱蒼と茂った草をなぎはらう場合や頭上から垂れ下がるごっつい蔓を切る際にも
当然出番となる。
そういった場合に鉈のリーチがものを言う。
一般的な6寸以下の鉈では小さすぎる。

しかし問題は近い将来、富山で作る泊鉈が入手出来なくなるのは明白である為に将来の予備も含めてストック用を入手する事を真剣に考えなければならない。
(本当の幻の鉈になる前に出来うる限り早急に入手すべき)
この泊鉈と呼ばれる越中鉈は現在一軒のみでそこが無くなればもう諦めるしか無い。


全長は実測420mm
刃長は約210mm(とんび部分は含まず正味の刃長。ちょうど7寸)
他の方の130匁のサイズを見ても分かるように手作りの為に当然個体差はあると思われる。
刃の全長はトンビ部があるので当然長くなるが逆に柄は短め。
その為腰回りで柄が邪魔になりにくい。
これも重要なポイントで柄が長いと本当に邪魔。
体の動きが制限されて鬱陶しい事この上無い。
通常の腰鉈では柄が長めの為に横っ腹や背中を柄がグイグイ指圧してくれる。
柄が短めなので必然的に更にトップヘビーになり打撃力が増す。


外観は無骨そのもの。加飾は一切なく、間違っても飾っておくようなものではない。
鎚跡の一つ一つに職人の気概を感じる逸品。
よくネットで刀匠何代目云々と能書きを連ねているところがあるが宣伝はうまいが職人とは多くは語らず仕事そのものが語ると考えている為にそういったところは基本的にはあまり好きではない。
本当に必要な人にはそういった能書きは不要で物が良ければそれで良い。
概してそういったものは見てくれは素人目には良いがそれだけのように思える。
道具はシンプルであるべきで装飾品ではない鉈にまで加飾は全く以って必要がない。
価値観は様々ではあるが、本来の鍛冶屋の意地とプライドを感じさせる作品であってほしい。

注文した際に鞘の事を聞き忘れていたため届いた段ボールを開けると当然鞘はなく鉈本体だけ。
今はもう作っていないようだが木で編んだ手作り鞘が欲しかったですが、、、
サルナシで編んだこれも同じく富山の手仕事による鞘
写真で見ると物凄く手間暇をかけたものであることが一目でわかる。
これも同じく悲しいかな途絶えていく伝統技術。

便利、快適を追い求めた我々がそういった技術を衰退させ今になって惜しむという皮肉な時代
哀しんでいてもしょうがない。
無いものはない。鞘ぐらい自分でこしらえろ!という事なのであろう。
それもまた潔し。自分で作る事にします。
使い勝手に合わせた自作もまた一興というもの。

製作者はご高齢で富山で最後の泊鉈職人。



割り込みの片刃というかなり凝った作りで鎚跡が残る重厚な味のある刃裏


桜の中に大の字

今となっては大変貴重な泊鉈を運よく入手でき、職人の逸品を使う事が出来ることを光栄に思います。
ちまたに溢れたプライドの無い鍛冶屋の作品には辟易していたのでこういった崇高な作品を見ると
頑張ろうという気にもなるもんです。
切れ味は言うに及ばず刃の形状との相乗効果で素晴らしいの一言。

R形状と先太り、トンビ部によるトップヘビー。この形状あっての切れと思う。
搬出ルートの開拓に使用するが3センチ程度の枝なら一振りで両断する。
剪定鋏では切れない太さで尚且つ鋸を使っている間がなければ迷わず泊鉈の出番となる。
又、蔓払いにもトンビ部分が非常に役に立つ。
引っ掛けて手繰り寄せて切る、切ったものをひっかけてどかす。手先の延長になって都合が良い。
雑木も出来るだけ根近くで切りたいのでトンビ部があると安心して振り下ろせる。

他の鉈はそれぞれの用途に特化しているものが多いが、万能性となると恐らく泊鉈の形状が最善だろうと思う。
鉈や鎌をそれぞれ持って行くわけにもいかないので最大公約数としてコイツの出番となる。
今では山に入る際の腰道具の必需品となっている。

刃の強度は他と比べると随分タフと思う。使い始めは大欠けはないが細かい刃こぼれは当然する。
しかし、研げばすぐに消える程度のもので使い込んで砥ぎ進むに従って問題の無い強度になる。
2回目以降は欠けはない。
研ぎに関しては曲線の刃は今まで経験が無いのですが今まで通りに角砥石に当ててみるとやっぱり先に行くほど砥石に置いた両端部しか当たっていない。
トンビ部が邪魔で先端部が少々研ぎにくいがマスターしこの鉈のポテンシャルを最大限に活かせる刃が付けられるようになれば手放せない相棒となる。

砥石については鎌砥石や曲刃用の砥石など色々相性を探ってみたがオーソドックスな角砥石に落ち着いた。
角砥石のPA#220(粗砥) A#1200(中砥) WA#3000(仕上砥)の組み合わせで十分鋭利な刃が付く。

(✳︎最近は時間短縮の為、番手はほとんど同じながらセラミック砥石に変更した。)

刃先は当然蛤刃にしていつも研いでいる。
研ぐ際は全ての砥石の面修正を面倒くさがらずにしたい。
たまに今回の研ぎはなんかおかしいと思う時があるが必ずそういう時は砥石の面がわずかに歪んでいる。
雑念があるとそういうところが雑になるので結果ははっきりと出る。


作業の邪魔になる雑木を倒す為に使っているのでこれがメインの作業では無い為に1日で切れなくなるという事はまず無い。
なので作業中に研ぎ直す事も無い。
鎌砥石でよく研いでるのを見るが自分は角度を一定に保ち研ぐ自信が無い。
当たりの角度とそれを正確に維持するのはかなり難しいと思う。
角度の誤差がほとんど無い動きを人間が行うのは普通に考えて難しい。
勿論ラフな研ぎでいいというのであれば構わないが‥‥。
疲れた現場で余計な神経を使いたく無いので自分は研ぎ台に角砥石を固定し当て角の自作ゲージを使いながら腰を据えて研いでます。


山師の必需品 折り鋸との二丁差し
色んな鞘をあれこれ作っては試したがこいつが1番使い勝手が良く邪魔になりにくい。
(市販の鉈袋にひと工夫済み--------下記参照)
自分の場合は鋸の出番になるケースは比較的少ないので折り鋸が良い。通常の手鋸では邪魔になる。
しかし10mm以上の枝木を切るのがメインの日はこれと別に180か150mmの剪定鋸を持つ。
泊鉈の出番は道を付ける時や伸びすぎた樹木を切り倒す時等。

鞘は自作の木鞘も試したがこの鉈袋が1番シンプルで使い勝手が良い
折り鋸も入り二丁差しとなる。
鉈自身が袋を突き破るという事はないが、入れた際の凹凸が岩や木にこすれて
その箇所が穴が開いたり破れてくるという事は十分考えられる。
そこで破れる前に対策としてインナーを作成。


インナーの作成
ふくろ倶楽部の鉈袋だがそのままでは収まりが悪いのでインナーに発泡塩ビ板を加工して差し込んでいる。FOREX(フォーレックス)という製品名で売られている発泡塩ビ板。
ストーブ、アイロン、コテの熱で強引に曲げて加工した為に色んな傷が入ったが気にしない。
ゴム板を重ねてナカゴとして袋縫いしている。
折り返し部の内寸厚みは約6mm←ここは8mmでするのが正解でした。
6mmパイプを熱し折り返し部に当てて少しずつ曲げ加工。結果的に8mmパイプが正解。
中央部は内寸7〜8mm
ナカゴの厚みは9mm(3mmのゴム板を3枚重ね)
実際に入れてみて干渉するところはアイロンを当てながら木の棒を突っ込み都度微調整。


ぴったりサイズで差し込んでいる為に鉈袋には縫い付けていない。
鉈の差し込み口は研究中であるがこの形状が今はベスト
2段の柄の差し込み口は1段目がガイド役となって2段目にスムーズに入り込む。
また背に当たる入口を残している為にガイドとなって目視せずとも入れやすい。
但し、材質は上記の様に発泡塩ビ板(フォーレックス)なので耐久性は若干不安。
というのも泊鉈をはじめ黒打の特にトンビ付の鉈は当然表面が磨かれていないので
仔細に見るとひっかき傷をつくるようなバリというか鋭利なところが多い。
そのために今回のものでもそうであるが樹脂には簡単に傷を付ける。
それによってパキッとなる可能性は高い。
(→2か月目に残念ながら作業中に入口が割れてしまった。背負子の重量がのしかかり運悪く破損)
カイデックスはどうか?とも思ったが多かれ少なかれ傷だらけになると思う。
(→第二段階としてカイデックスで再チャレンジ予定)
磨きの鉈なら樹脂の鞘でも良いと思うが無骨な黒打ちの鉈となると色々と問題が出てくる。
故に昔からこういった鉈には木鞘を使っているのだと納得。
従ってこれが壊れれば今度は木で再度挑戦してみようと思う。
鉈袋に入れるメリットは2丁差しに出来る点と多少なりとも皮が柄の滑り止めとなって
スコスコ抜け落ちるのを防いでいる点。
又、如何にも鉈をぶら下げてますというのを抑える点でもこの袋は使える。
(といっても山に人は来ないが)
完璧な鞘ではないがこれから色々試して完成度を高めていこうと思う。
どのみち数年で消耗する為にその都度完成度が上がっていくと思う。
あまり手をかけずに尚且つ理想の形に、、、、、。難しい課題だ。

2015,2,20追記
残念ながら150匁はこの先入手は出来そうにないそうだ、、、。
130匁は作り置きがいくらかあるそうだが、、、、、。
ひょっとすると昨年130を購入した時も150は無く既に150の製作予定はなかったのかも知れない。
無い物は無い。しょうがない。
しかし130匁で十分。150匁では振りが重くなり作業後半の疲れが出始めた頃に
操作が難しくなりそう。又、そういった場合に事故は起こりやすい。
130でもヘロヘロになるまで作業していると随分と重さを感じる。


自分の用途では130でも十二分にこなせるのでこの先一生分の泊鉈を注文した。
あと40年分
使い切るのが先か自分が先か。

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一年以上ほぼ毎日使っているがやっぱり使いやすい。
通常の腰鉈もたまに使うが結局これに落ち着く。
トンビ部の重量が振るとグッと効き通常の角鉈よりも扱い易い。

砥石は220 1000 3000 (8000)の4種(基本は3種)で研ぐ。

○インナー2016年版
これまでのフォーレックス製が割れてしまって檜板で作り直し

○インナー2017年版
昨年の木製のインナーは鉈の抜き差しがやり易かったがいかんせん厚みが
あり鉈袋のサイズにギリギリに入っていた。
故にパンパンに膨らみ太ももへの干渉が気になっていた。
又ひとたび雨で濡れると袋と密着し抜けなくなる。
中のゴミを捨てようにも抜けなくなるので困っていた。
かといってインナー無しだと収まりが悪い。

フォーレックス製だが今回は入口を折り返し二重にしている。
フォーレックスはホムセで簡単に入手出来るので強度はあまり無いが
ついつい選んでしまう。
軽量だが荷重がかかると意外と簡単に割れてしまう。
3ミリ厚を選んでいるがこれでも割れる。
いつも背負子を担いだり下ろしたりする際に40ー50キロの荷重がのしかかり
パキッといく。
割れたら割れたで作るのも簡単なのであまり気にならない。
ストーブの熱で簡単に曲げられる為に数時間で製作可能。
だからかいつも冬場の出られ無い時の暇つぶしにしている。

○トンビ部の便利なところ

トンビ部は結構便利で除草剤のアルミシールを破るのに丁度良い。
このアルミシール結構丈夫で尖ったもので突き破らなくてはいけない。
鉈のトンビでブスッと1発突きそのままグルッと回せばうまくシールに大穴が開く。

◯トンビ部に救われた所

普段はそんな事が無いが時にえげつない現場の日もある。
心身ともに疲れきったときにたまーに自分の膝あたりをコツッとやってしまう。
トンビがあるので安心し切っているからだろう。
でもたまに普通の腰鉈も使うので気を抜いてると文字通り痛い目にあう。


<大久保製作所> 大久保中秋さん